FR77、続航中

先日のクリップの続ききてたー!
【軍事】ミリタリー系創作スレ【兵器】2 より。
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1257136826/13-15
挿絵付きー

13 :666squadron:2009/11/06(金) 23:35:07 id:JTe4xjsM
火曜日

「全艦の水密扉および昇降口を閉鎖せよ。総員戦闘配置につけ」
事務的に、冷酷に、拡声装置の金属的な声が、艦の隅々まで響きわたった。
空は一点の曇りなく晴れ渡り、風は強く波は高い。
絶好の空襲日和だった。
昨夜から本日未明にかけて船団に接触し続けるUボートを始末する試みは悉く徒労に終わり、HFDF(高周波方向探知機)は、ドイツ潜水艦がロリアンの司令部に向けて発信する無線電波を夜通し捉えていた。
所在を明らかにされたFR77に向けて刺客が放たれるのは時間の問題であり、過去の経験に照らしそれ何であるかについてはほとんど疑いの余地は無かった。
KG−26。
He111型機を装備し「ライオン飛行隊」の異名を持つこの部隊こそドイツ空軍きっての魚雷攻撃のエキスパートであり、あの悲劇的なPQ−17をはじめ多くの連合国艦船が彼らの投下した魚雷によって北海の底に葬られていた。
第十四護送戦隊にとっては何度も煮え湯を飲まされた相手であると同時に、手の内を知り尽くした相手でもある。
いつものように夜を徹して出撃準備を整えたハインケル機は夜明けと同時に基地を飛び立ち、レーダー探知を避けるため波頭を被るくらいの高度で進撃しているはずだが、ノルウェーのドイツ軍飛行場とFR77を隔てる碧い水の連なりが、船団に来訪者に対する備えを固める時間を与えた。
駆逐艦コルベット艦は牧羊犬のように駆け回り、夜の間に落伍した船を追いたて、バラけた隊列を整えたのち商船隊の周囲を護衛艦が取り囲む標準的な輪形陣を組んだ。
全ての水密区画は閉鎖され、全てのボイラーは全力運転に備えて配員され、全ての火器に弾丸が装填された。
0732時、FR77の全艦艇は戦闘配備を完了した。

援ソ船団を求めてバーデュフォスの飛行場を飛び立ったKG−26主隊のHe111は、バナクから発進した分遣隊と洋上で合流。その数は四十機に達していた。
プロペラ後流で波を切り裂き海上をかすめて低く飛ぶハインケル機の主翼下には、直径45センチ、重量812キログラムのF5b航空魚雷二本が吊り下げられている。
必殺の凶器を抱えて海面すれすれを飛ぶ双発機の集団が基地を飛び立ってから二時間余り、未だ目標は発見できていない。


14 :666squadron:2009/11/06(金) 23:36:30 id:JTe4xjsM
だがこれは想定の範囲内である。
KG−26はUボートが知らせてきた船団の針路をもとに設定した予想進出線に沿って飛行しているのだが、船団指揮官の首の上に載っているのが帽子の台でない限り、追撃をかわすために船団を変針させているはずだった。
だがどこに?
常識的に考えるなら北に針路を向けるだろう。
ノルウェーから遠ざかることになるし、運が良ければ流氷限界を越えて南下してきた氷の中に逃げ込むことが出来る。
だが大胆な指揮官ならそう予想するこちら裏をかいてあえてノルウェー寄りのコースを取るとも考えられる。
飛行隊長は編隊を東に向けた。
山勘だったがズバリと当った、弓道風に中ったと表記するとちょっとウォシャレ。
第二中隊二番機の機上銃手が水平線の向こうに見つけた一筋の黒煙。
それはFR77を構成するカナダ船籍の貨物船、ケープ・ハッテラス号の煙突から排出されたものだった。
無論船団指揮官は狼煙のように目立つその煙を座視していたわけではなく何度となくケープ・ハッテラス号に警告を発し、遂には護送戦隊司令直々に発火信号で“ソノクソイマイマシイ煙ヲハヤクドウニカシロ”と通達したのだが、ケープ・ハッテラス号の船長はこう返したものだった“ドウニモナラン、ボストンで積ミ込ンダクソイマイマシイ石炭ノセイダ”。
ジャイルズ爺さんの血圧がどこまでハネ上がったかは想像にお任せといったところだろうか。
そんな事情を知る由も無く、KG−26の襲撃行動は高度に訓練されたプロフェッショナルの技をもって敢行された。
海面に主翼を突き立てるような急旋回で編隊ごと針路を変えたハインケル機は、幌馬車隊を襲撃するインディアンよろしく船団の外側を周回するコースに乗る。
しかるのち各々の小隊が目標を定め、四十機の双発爆撃機が投下した八十本の魚雷が逃れようの無い全方位からの槍襖となってFR77に襲い掛かり、弾頭部に収められた250キログラムのTNT火薬が標的の船腹を抉り、隔壁を引き裂き、竜骨をへし折って速やかに海底に送り込むはずだった。
彼女たちがいなければ。
「戦闘機!戦闘機!」
狩り立てる側から狩り立てられる側へ。
あまりにも急激な事態の変化は即時の理解を拒むものだったが、人は時として非情な現実を受け入れなくてはならない。
エンジンを唸らせ、機関銃から火を吐きながら666戦闘飛行隊が猛毒のスズメバチのように来襲した。


15 :666squadron:2009/11/06(金) 23:38:13 id:JTe4xjsM
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