タイトル未定 第零話(プロローグ)

H.G.ウェルズとその全ての創造物に捧ぐ


・・・それは、ある6月のことだった。

倫敦は既に陥落し、組織的な抵抗は潰えたとの報はあったが、我が海軍の主力艦隊は未だ戦力を残しており、指揮統制も失ってはいない。
しかし、既に本土に上陸を許してしまった後の艦隊に何の意味があろう?


そう、この混乱に満ちた魔女の大釜の蓋が開いてから、まだ一週間もたっていないのだから!
最初のシリンダーがホーセルに落下してきたのが木曜日。
以来、我が祖国はたった三日のうちに首都を失陥し、失われた人命は計り知れないと云う。
七つの海に日の沈む処のない大帝国の終焉がこのようなことになると、一体誰が想像できたであろう?


いや、ことによると奴らの増援が欧州、新大陸、亞細亞などにも現れるやも知れぬ。
地球人類は火星人類に膝を屈せざるを得ないのであろうか。
・・・否、断じて否。
我らは最後の最後まで、抵抗を諦めてはならないのだ!


          −海峡艦隊司令長官、サー・アーサー・ウィルソン提督訓辞